2018-04-08から1日間の記事一覧

トラウマ小説 ◆1◆ はじめての合宿

『楽しい! 毎日が楽しい! 学校も先生も友達も、父さんも母さんも、だーいすき!』 そんな毎日だった。小学4年生の、あの野球の合宿で起きた事件までは。 1年で1番暑い日。ぼく只生(ただお)らの野球チーム、キングタイガース(キンタイ)は新潟県の岩…

トラウマ小説 ◆2◆ 発端

うわさに聞いていた特盛のごはんが、目の前に用意されている。 「うへぇー」と、あちこちでおどろきとため息が聞こえてくる。あれほどバテたあとなんだから、食欲なんてあるはずがない。でも、逃げ道はもちろんない。 どこからかピッ! という笛の合図がした…

トラウマ小説 ◆3◆ 発狂

帰りの新幹線。青い海に、緑いっぱいの山々。景色はばつぐんだ。 発車してから1時間がたち、ぼくのがまんは限界をこえた。すばらしい景色に水を差すようにして、本性が表へ飛び出したのだ。 「だれか食べ物をちょうだい! お腹すきすぎて死ぬー!」 沈黙か…

トラウマ小説 ◆4◆ 痩せた体

あの合宿の直後、ぼくは家でもあまり食べられなくなり、ガリガリに痩せてしまった。 夏休みを終えた学校では、「どうしたの?」と、心配してくれる友達がいる。その友達の目はわずかに瞳孔が開いていて、ぼくの体に向けられている。 「いや、どうもしないよ…

トラウマ小説 ◆5◆ 給食

学校には当然だけど、給食の時間がある。朝からなにも食べていないからはらぺこなのに、ウッと吐き気がするという、分裂状態。ぼく自身わけがわからない。 やがてとことん悩み抜いて、こう結論づけた。 『給食でさえ食べられなかったら、死ぬな』 これはつま…

トラウマ小説 ◆6◆ 恐怖

ぼくはそんな風にして学校で、内心ビクビクしながらも、給食やお弁当を残さずに食べていた。 また、家でもマシになっていた。まだ子どものぼくには、柔軟性があったのかもしれない。ただ、それ以外の場面ではまるでダメだった。 前にも少し言ったけど、 『人…

トラウマ小説 ◆7◆ 空腹にたえて

毎週日曜日。キンタイの練習のために朝早く起きる。一週間に一度やらないとダメな、もはや儀式。そしてやっぱり儀式の前は、なにも口に入らない。 まずはじめにやるのが、学年をごちゃ混ぜにした、チーム対抗リレー。ぼくはいっつも興奮と緊張でのぞんでいた…

トラウマ小説 ◆8◆ まちぶせ

ワニブチは、練習が終わり帰宅時間になると、かならず、門の手前でぼくをまちぶせている。 帰りの門は1つしかない。ほかの子どもたちが通ると、「さよならー」と、にこやかに見送っている。でもぼくのときだけは様子が違った。 「メシ食えるようになったか!…

トラウマ小説 ◆9◆ まちぶせのあと

家に帰ると、ワニブチとの理不尽なやり取りによって高まった怒りを、どこかへ吐き出したくなる。 「またワニブチコーチが、メシ食えるようになったかって聞いてきた! もうどうしたらいいんだよ!」 「まあ、それはたいへんねえ」と母さんは、あまり感じてい…