トラウマ小説 ◆6◆ 恐怖

 ぼくはそんな風にして学校で、内心ビクビクしながらも、給食やお弁当を残さずに食べていた。
 
 また、家でもマシになっていた。まだ子どものぼくには、柔軟性があったのかもしれない。ただ、それ以外の場面ではまるでダメだった。
 
 前にも少し言ったけど、
『人前で吐いてきらわれたらどうしよう』という不安と恐怖に支配されて、日常生活を送っていた。
 それらの思いは、普段からぼくが軽蔑している人に会ってしまったとき、強く働いた。だけどそれよりも、とくに尊敬して好意を抱いている相手には、さらに強く働いた。
 面白い先生や、親友になれそうなほど気の合う人。せっかくお互い好意を感じ合っているのに、ぼくのその病的な部分があらわになると、大事な部分がくずれていってしまうんではないかという、絶望にも似た恐怖。別の言い方をすれば、吐くという行為そのものと、きらわれてしまったらどうしようという、2重の恐怖だ。
 さらにぼくを悩ましくさせたのは、母さんがその症状のことを誰にもしゃべるなと言っていることだった。