2018-03-10から1日間の記事一覧

トラウマ小説 ◆20◆ 我慢

けっきょくまる1日、食事のひとかけらも胃に入れられず、就寝・消灯時間になってしまった。 ぼくは部屋で発狂した。お腹がすき過ぎたんだ。そんなぼくに、同部屋になった児島くんが言った。 「さっき食べればよかったじゃん!」 「どうしても……無理なんだよ…

トラウマ小説 ◆21◆ はげまし

さあ、朝食だ。 極度の空腹を感じていたぼくは、真っ先に食べはじめた。くっそおいしかった。でも少したってから吐いてしまった。目の前に映るのは食べ物ではなく、ワニブチの顔だった。 それからはみんなの視線が気になって食べられない。 これまでのあまり…

トラウマ小説 ◆22◆ 孤独

悪魔の合宿からなんとか生還した。それでもやっぱり、吐き気のことでずっと悩むことは変わらなかった。 父さんに話そうとしても、いつもすぐさま「忘れなさい」って、母さんと同じことしか言わない。最近はもう、気のめいる声で。だからぼくは悟った。父さん…

トラウマ小説 ◆23◆ 太らない体質

いっこうにワニブチとの状況が改善されない。それはぼくがいつまでも、ガリガリに痩せているからだ。 食べても太らないから狙われるんだ。でもいくら食べたって、学校の給食を毎回おかわりしたって、ぜんぜん太ってくれないんだ。病気かな、違うよ。こんなに…

トラウマ小説 ◆24◆ 安心

それは自然ななりゆきだった。親切で、一緒にいてなんだか居心地がいいな、と感じていた同級生のお母さん。その人に誘われてフラっと出かけたんだ。2人きりで。 街を歩くのが楽しい。おばさまは、ほんのときたまにしか話しかけてこない。でもなんだろう。安…

トラウマ小説 ◆25◆ 思いこみ

天と地がひっくり返るかのような衝撃が走ったのは、何気なく道を歩いているときだった。 『ぼくは重大な見落としをしていた。いまさらになって気がつくなんて』 キンタイに入りたてのころだった。まだ、勝ち負けうんぬんにこだわらなくてよかったとき。チー…

トラウマ小説 ◆26◆ 興味

「おい、また伊藤ユリアがお前のプレーを見に来てるぞ。たまには声でもかけてやれよ」 あるキンタイの練習終わりでのこと。うすうす感じていたことを、チームメイトに指摘されてしまった。 「イヤだよ」 「どうしてだよ?」 ぼくは口ごもってしまったが、考えた末…

トラウマ小説 ◆27◆ 本当の解決

やっぱり、根本を解決しなくちゃダメだ! ワニブチによるかつての長いまちぶせによって、ぼくはすっかり野球自体がこわくなっていた。それに、人前で食事が満足にできないジレンマも持ち続けていた。もう我慢ができない。 ぼくは母さんに何度もお願いした。 …

トラウマ小説 ◆28◆ おもしろくない

「三振していいから、思い切りバットをふってこい」 綿イシ・柴ザキ両コーチから、いつもそんな言葉をかけられていた。ぼくは打撃フォームを改造してから、まったくヒットが打てなくなっていた。 改造は、6年生のある日に行われた。みんながぼくを中心に輪…

トラウマ小説 ◆29◆ 予感

このころチームは、最後の6年生ということもあり、今までとは様子が違っていた。 綿イシコーチは言っている。 「キンタイが全国を目指すのは、このチームで最初で最後になるだろう」 それほどにぼくらはキンタイ史上一番強いチームだった。だからプレッシャ…