2018-03-10から1日間の記事一覧
けっきょくまる1日、食事のひとかけらも胃に入れられず、就寝・消灯時間になってしまった。 ぼくは部屋で発狂した。お腹がすき過ぎたんだ。そんなぼくに、同部屋になった児島くんが言った。 「さっき食べればよかったじゃん!」 「どうしても……無理なんだよ…
さあ、朝食だ。 極度の空腹を感じていたぼくは、真っ先に食べはじめた。くっそおいしかった。でも少したってから吐いてしまった。目の前に映るのは食べ物ではなく、ワニブチの顔だった。 それからはみんなの視線が気になって食べられない。 これまでのあまり…
悪魔の合宿からなんとか生還した。それでもやっぱり、吐き気のことでずっと悩むことは変わらなかった。 父さんに話そうとしても、いつもすぐさま「忘れなさい」って、母さんと同じことしか言わない。最近はもう、気のめいる声で。だからぼくは悟った。父さん…
いっこうにワニブチとの状況が改善されない。それはぼくがいつまでも、ガリガリに痩せているからだ。 食べても太らないから狙われるんだ。でもいくら食べたって、学校の給食を毎回おかわりしたって、ぜんぜん太ってくれないんだ。病気かな、違うよ。こんなに…
それは自然ななりゆきだった。親切で、一緒にいてなんだか居心地がいいな、と感じていた同級生のお母さん。その人に誘われてフラっと出かけたんだ。2人きりで。 街を歩くのが楽しい。おばさまは、ほんのときたまにしか話しかけてこない。でもなんだろう。安…
天と地がひっくり返るかのような衝撃が走ったのは、何気なく道を歩いているときだった。 『ぼくは重大な見落としをしていた。いまさらになって気がつくなんて』 キンタイに入りたてのころだった。まだ、勝ち負けうんぬんにこだわらなくてよかったとき。チー…
「おい、また伊藤ユリアがお前のプレーを見に来てるぞ。たまには声でもかけてやれよ」 あるキンタイの練習終わりでのこと。うすうす感じていたことを、チームメイトに指摘されてしまった。 「イヤだよ」 「どうしてだよ?」 ぼくは口ごもってしまったが、考えた末…
やっぱり、根本を解決しなくちゃダメだ! ワニブチによるかつての長いまちぶせによって、ぼくはすっかり野球自体がこわくなっていた。それに、人前で食事が満足にできないジレンマも持ち続けていた。もう我慢ができない。 ぼくは母さんに何度もお願いした。 …
「三振していいから、思い切りバットをふってこい」 綿イシ・柴ザキ両コーチから、いつもそんな言葉をかけられていた。ぼくは打撃フォームを改造してから、まったくヒットが打てなくなっていた。 改造は、6年生のある日に行われた。みんながぼくを中心に輪…
このころチームは、最後の6年生ということもあり、今までとは様子が違っていた。 綿イシコーチは言っている。 「キンタイが全国を目指すのは、このチームで最初で最後になるだろう」 それほどにぼくらはキンタイ史上一番強いチームだった。だからプレッシャ…