トラウマ小説 ◆26◆ 興味

「おい、また伊藤ユリアがお前のプレーを見に来てるぞ。たまには声でもかけてやれよ」
 あるキンタイの練習終わりでのこと。うすうす感じていたことを、チームメイトに指摘されてしまった。
「イヤだよ」
「どうしてだよ?」
 ぼくは口ごもってしまったが、考えた末に言った。
「だって好きじゃないもん」
 こんな言葉を出すにはすんごく勇気がいったけど、相手がしつこかったから仕方がなかった。
「好きじゃなくったってさあ、なんかあるだろう?」
 そこまで言われても、ぼくはかたくなに無視をし続けた。なぜかって、闘っていたんだ自分自身と。好きでもない女子にかまってなんていられないよ。ぼくはなんてひどいヤツなんだろう。
 
 身支度をして、練習場の学校からの帰り道。野球のあとは、待ってましたと言わんばかりに、すぐさまサッカー同好会の練習がはじまる。
 ぼくは道路のはじに寄り、フェンスごしにサッカー選手たちをながめる。このところずっと、そうしている。
 なんだうらやましかったんだ。一目見ただけで、賑やかで楽しそうな雰囲気だったし、平和的な匂いがしていた。こうして太陽がぽかぽかとグラウンドを照らし出すころに、同好会の人たちがワイワイとボールを蹴りはじめるイメージがいつもあった。
 なんで、せっかくの休みなのにぼくらだけ早起きをして、寒い中をつらいしごきに耐えなくちゃならないんだ? 朝と昼を交換してくれよ! 
 そうやって、嫉妬と許せない気持ちを抱えながら歩いて家へ帰る。
 野球よりサッカーのほうが、いいなあ。
 
 ぼくは母さんに、
「もう野球やめたい」とうったえたことがある。でも当然のごとく、ダメだって言われちゃった。
「メシ食えないくらいなんなのよ。ここまで来たんでしょ! 必ず皆勤賞を狙いなさい」