2018-03-20から1日間の記事一覧

トラウマ小説 ◆10◆ チャンネルはプロ野球 

もう下校時間かあ。今日も楽しかったなあ。 根が脳天気であるぼくは、無我夢中の学校生活を取り戻していた。それでも……。 家では夕食のとき、ずっとテレビがついている。プロ野球は毎日だ。うちの家族はみんな野球が好きだから、ぼくにチャンネル権はない。 …

トラウマ小説 ◆11◆ 母さんと外出

ポカポカ陽気に包まれた休日。今日はなんにもしなくていいい。なにも考えなくていい。 子鳥たちが木々の枝先で歌っている。心地良さに運ばれてくるように、母さんがぼくに話しかけてきた。 「ねえターボー、いっしょにお外へ行かない?」 「うん。どこ?」ぼ…

トラウマ小説 ◆12◆ おびえ

いつも怒りをうちに秘めたままのぼくは、だんだんと周りが見えなくなっていった。 ぼくはキンタイでショートを任されていた。となりのサードを守る和光くんと、口をきかない日が続く。 和光くんはこわい。ややカッとなる性格で、学校では不良あつかいされて…

トラウマ小説 ◆13◆ カメラ

いっときチームメイトの親が、練習や試合の風景を、ビデオカメラで撮ることがブームになった。 「只生すっごいうまいんだから、見てみなよ。うちへ来てさ」 色んな人が声をかけてくれた。けどこわくて無理だよ。 予想だけど、ビデオを見にそのチームメイトの…

トラウマ小説 ◆14◆ 罪悪感

ぼくはあいかわらず頭をもたげ、考えていた。自身の状態やとりまく世界を。 食事の誘いや施しを人からもらった際に、その人が納得するような説明をして断らなければならない場面がある。世界は、人と人とのつながりが大切だから、どうしてもその場面はおとず…

トラウマ小説 ◆15◆ 解決

日々の苦しみから逃れる方法が見つかった! プレーを楽しむことだ! 守備でもバッティングでも、1つ1つを集中して、全力で楽しんでしまうんだ。楽しんでいれば悩んでいるひまなんてない! ぼくはプレーに生きている価値を見いだしていった。その結果、どん…

トラウマ小説 ◆16◆ 役者

『そんなんじゃ解決しないんだよ……』 真夜中、うなされて目が覚めた。そのあとしばらく眠れなかったけど、がんばって目をつむっているとやがて眠りはおとずれた。 『話が通じる相手じゃないんだよ。同じことの繰り返しだからこんなに困ってるのに……』 また目…

トラウマ小説 ◆17◆ 距離

「いつか飲み屋で、一緒に酒をくみかわせるのが楽しみでしかたがない」 父さんが夕食のときにそう言い放った。 はぁ? なに考えてんの? そのころにはぼくはもうすっかり精神がまいっていた。だから父さんの言葉に怒りを覚えたけど―― 『こうこう、こういうわ…

トラウマ小説 ◆18◆ 新しいチームメイト

キンタイの練習のあとは、だれも一緒に帰ってくれなかった。 そこへ、児島(こじま)くんがチームに加わった。前から野球に興味があったようだ。 児島くんは明るくて活発でやんちゃなクラスメイト。人気もあった。 ぼくと児島くんはすぐに意気投合した。どう…

トラウマ小説 ◆19◆ レギュラー

今、5年生の合宿に来ている。ぼくにとっては二度目の合宿だ。決死の覚悟でのぞんでいる。 もちろん食事の時間がくる。ぼくは頭をフル回転させ、食べられる術を考えていた。ここが本番だ。そうして、やっと食べられるかな、と思いはじめたとき、ワニブチがそ…