トラウマ小説 ◆27◆ 本当の解決

 やっぱり、根本を解決しなくちゃダメだ!
 ワニブチによるかつての長いまちぶせによって、ぼくはすっかり野球自体がこわくなっていた。それに、人前で食事が満足にできないジレンマも持ち続けていた。もう我慢ができない。
 
 ぼく母さんに何度もお願いした。
「ワニブチの家がどこにあるのか教えて」
 でも母さんは、決まってはぐらかす。
「そうねえ……、だれかに聞けばいいじゃない」
 ウンザリした様子だ。ぼくがいつまでも聞いていたから。
 学校にいるチームメイトに聞いたらまずい。なんていうか、ヒーローのぼくがやることじゃないから。うらんでいる人の住所を聞いて回るなんて、悪者のすることだ。だからこそ聞ける相手は、一番身近で事情も知っている母さんにだけだ。
 
 でも、とうとう教えてもらえなかった。
 そのころ世間を騒がせていたのは、もっぱら、少年犯罪のニュースだった。毎日ワイドショーでは、どこぞの少年による犯罪の話題をとりあげていた。そして母さんも例外なく、毎日ワイドショーづけだったようで――
『只生が事件を起こしたらどうしましょう。今に、だれかをナイフで刺すんじゃないかしら』
 そんなふうに、本気になって心配をしていたらしい。
 ぼくにしてみれば、いつまでも苦しんだことを本人に直接ぶつけたかっただけだ。話すことで、なにもかもをチャラにさせたかったんだ。こんな中途半端な気持ちでいたら、この先どうなってしまうというんだ。
 
〝このときのぼくの考えは、しごくまっとうだったことになる〟